三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)は日本で2番目に大きい金融機関であり、それゆえアジア地域の発展に重要な役割を担っている。金融活動を通じて、日本およびアジア地域の脱炭素化を加速化させることもできれば、ネットゼロ目標からさらに遠ざけることもできる。これまでのところ、同社は後者に積極的に貢献している。
SMBCグループ:意義あるコミットメントの欠落、気候危機を煽る
SMBCグループは、気候危機を煽ってきたことで知られる。報告書「気候カオスをもたらす銀行業務(Banking on Climate Chaos)2022」によれば、同社は2016年から2021年の間に化石燃料事業に対して1,092.7億米ドルの資金提供を行っており、銀行業界の中でも世界的な化石燃料の支援者として世界トップ20に入っている。
BankTrackの分析では、化石燃料にまつわる方針の総合評価において、SMBCグループは200点中わずか8.5点となっており、「ラガード(遅れをとる企業)」と見なされている。評価項目ごとの採点結果は次の通りだ。
- 石油•天然ガスに関する方針 – 2/120
- 海洋石油•天然ガス – 0/18
- 液化天然ガス(LNG)– 0/18
- 石炭に関する方針 – 6.5/80
- 化石燃料拡大に関する方針 –5/82
- 石炭インフラに関する方針 – 0/16
NGO数十団体が行った世界の気候危機の元凶に関する分析によれば、石炭火力発電への融資ランキングの上位3行は日本の銀行が占め、そのうちSMBCグループは3位につけている。これには、日本の金融業界全体で見られる顕著な傾向が表れている。これまでのところ同社は変わらず、世界的に最も積極的な化石燃料支援者に名を連ねている。
不適切かつ不十分な誓約
SMBCグループは、2030年までにスコープ1、2のネットゼロ実現のほか、2040年までに石炭火力発電向けの貸出金残高ゼロ、2050年までにスコープ3のネットゼロ実現などといった気候目標を公表している。また、気候変動対策および脱炭素化ビジネスの強化を目指しており、そのために2030年までにサステナブルファイナンスを30兆円実行するとしている。
350.org Japan、マーケット・フォース(Market Forces)、レインフォレスト・アクション・ネットワーク、および気候ネットワークの分析により、SMBCグループが昨今公表した方針改定および取締役会の意見は、株主提案を十分に考慮した内容になっていないことが明らかになった。また、短期・中期の温室効果ガス(GHG)排出削減目標が開示されていないうえ、方針改定は、同社が新規の化石燃料インフラへの投融資を行っていないことを確信させるには不十分なものとなっている。
例えば、電力セクターの投融資ポートフォリオGHG排出量(Financed Emissions/FE)については、炭素強度の目標しか公表していない。これでは、たとえ化石燃料発電に対する投融資とFEの絶対排出量が増えたとしても、同目標を達成できることになる。また、同目標は融資のみが対象であり、投資と引受は対象外となっている。
この報告書の著者によれば、SMBCグループは2022年8月に、石炭・石油・ガスの2030年中間削減目標を公表する予定だ。だが、これらの目標は「上流生産事業」に限定される見込みであり、LNGターミナルなどの重要インフラは対象外となる可能性がある。
同業他社から遅れをとる
SMBCグループが2022年5月に公表した「気候変動に対する取組の強化」は、一般炭採掘事業の新規および拡張案件への支援は行わないとしている。しかしながら、新規採掘および拡張を押し進める企業に対するコーポレートファイナンスについては言及を避けている。
Fossil Free Japanは、SMBCグループが日本と海外における石炭・石油・ガス関連事業に対して引き続き支援を行っていると指摘している。例えば、同社は2006〜21年の間に、収益の96%を石炭採掘から得ている石炭大手アダロ・エナジー・インドネシア(Adaro Energy Indonesia)に対して、7億1,300万米ドルの融資(2021年だけでも4億米ドル)を行っている。また、炭鉱の新規開発および拡張を計画するオーストラリアのホワイトヘイブン・コール(Whitehaven Coal)に1億1,500万豪ドルを融資している。そればかりか、これらの企業に対する追加融資を制限していない。
現在、SMBCグループは、2016年比で石炭産業への投融資が増加している唯一の日本の銀行となっており、世界的には、LNGセクターへの投融資で第4位、北極圏の石油・ガス事業への資金提供で第8位となっている。同社はまた、石炭関連企業との取引や取引先企業に対する脱炭素化の取組奨励といった点で、みずほやMUFGなどの国内同業他社に遅れをとっている。
日本の定まらない気候変動政策に同調するSMBCグループ
日本は国全体として見ても、脱炭素化に誠実に取り組んでいることを未だ他国に確信させることができずにいる国の一つだ。海外の石炭火力発電事業への投融資の停止を誓約してはいるものの、その支援額は依然として世界第3位となっている。今日、化石燃料向けの資金の40%以上は、政策金融機関が出所となっている。
現在、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、石炭投資において世界第5位の機関投資家となっている。
日本の疑わしい動きに対して、すでにグリーンウォッシングではないかとの非難の声が上がっている。
SMBCグループ:企業変革は可能か?
SMBCグループは、様々な理由をあげ、定款一部変更の要請を一貫して拒否してきた。だが、日本の会社法に照らせば、定款の変更は、気候変動関連議案や株主提案が不適法として企業に却下されずに済む唯一の法的手段となっている。
投資家は、SMBCグループに対して、2050年カーボンニュートラル宣言に留まらず、取組をさらに強化するよう圧力をかけなければならない。同社は、意義のある短期・中期目標を含めた具体的なロードマップを策定すべきだ。そしてこれらのコミットメントは、いかなる形でも化石燃料事業を促進すべきではなく、開発(exploitation)の余地を残さないようにすべきである。2022年6月29日にSMBCグループの定時株主総会が控えていることから、行動するなら今が好機である。
これらの行動がSMBCグループの取締役会に影響を与えるかどうかは、近い将来明らかになるだろう。まずは2022年7月にアダロへの融資を更新するかどうかが注目される。
SMBCグループが「脱炭素化やトランジションに資するか否かを見極めつつ、2050年までの現実的なルートやスピードをしっかりと見定めた上で」顧客を支援する責任を誠実に全うしようとするなら、ビジネスアプローチを変えない理由はないだろう。化石燃料に対する投融資の継続に伴う膨大な座礁資産やレピュテーション(評判)リスクを考えれば、それは競争力という観点からもますます重要となる。化石燃料事業への支援を停止することは、SMBCグループがこれまで真の使命というよりはマーケティングの機会と捉えてきた「気候変動アクション」でリーダーシップを発揮することでもある。
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本記事はEnergy Tracker Asiaによる”The Curious Case of SMBC Group – Financing Climate Change Offenders”を翻訳したものです。