個別事業
日本政府やメガバンク、事業者は世界中の化石燃料事業に多額のリソースを注ぎ込んできました。いくつかの事業は、特に大きな懸念や問題点を抱えています。
LNGカナダ事業は、ブリティッシュ・コロンビア州モントニーで採掘するシェールガスを、670キロメートルに及ぶコースタル・ガスリンク・パイプラインでキティマットまで運んで液化する事業です。 先住民族ウェットスウェテン族(Wet’suwet’en)は、LNGカナダ事業に関連するコースタル・ガスリンク・パイプライン建設に反対の声をあげ続けてきました。
コースタル・ガスリンク・パイプライン事業では、気候への悪影響に加え、先住民族に対する深刻な人権侵害が報告されています。現在、コースタル・ガスリンク・パイプライン社は、ウェットスウェテン族の権利を無視して建設を進めています。
国際協力銀行(JBIC)は2021年10月、LNGカナダ事業に対する8億5000万ドルの融資を承認しました。JBICの融資決定は、融資前に先住民族から「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を得ることを求めるJBICの環境・社会ガイドラインに違反しています。
マタバリ石炭火力発電事業フェーズ2
(バングラデシュ)
国際協力機関(JICA)はマタバリ超々臨界圧石炭火力発電所(フェーズ2)への融資を検討していましたが、2022年2月にマタバリ・フェーズ1の建設工事請負業者である住友商事がフェーズ2の建設工事入札への不参画を発表した後、同年6月に円借款供与を行わない旨を発表しました。
しかし、JICAが支援中のマタバリ・フェーズ1事業に関しては既に建設工事が行われており、現地では川が影響を受け、2,000人以上の漁師が生計手段喪失の被害にあっています。また、船が運行できなくなったため、この地域からの輸送が妨げられています。川岸のマングローブ林も破壊されました。地元の人々は、事業の開発工事による汚染で隣接するエビの養殖場が被害を受け、また、川の水は事業の工事による沈泥と混ざって濁ってしまったと報告しています。
また、現在バングラデシュ政府はマタバリ・フェーズ2について、LNGによるガス火力発電への計画変更を検討しています。マタバリ・フェーズ2がガス火力発電所に転換した場合、値動きの激しいLNG市場に対するエクスポージャーが高まり、バングラデシュ国内はさらなる財政難を引き起こすリスクがあると言われています。LNGによるガス火力発電所の新規建設はバングラデシュにとって合理的なオプションではなく、このような誤った移行計画を日本政府が支援しないよう、引き続き声をあげる必要があります。
バロッサガス田開発事業(オーストラリア)
バロッサガス田開発事業は、ノーザンテリトリー準州の沖合に位置する開発事業であり、オーストラリアで最も汚染度の高いガス事業のひとつになる恐れがあります。
バロッサガス田から採掘されたガスは、計画されているガス輸出用パイプラインを通じて輸送され、既存のバユウンダンガス田〜ダーウィンLNGプラント間を結ぶ輸出用パイプラインに接続し、陸上のダーウィンLNG施設に供給される予定です。二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)による排出回収の計画には問題があり、仮に成功したとしても、排出量の30%程度しか削減できません。
この事業は、オーストラリアのサントス社(Santos)、韓国のSK E&S社、日本の電力会社JERA社の3社が提案しています。国際協力銀行(JBIC)は2021年12月、民間銀行との協調融資で3億4600万ドルの融資を決定しました。
計画中のガスパイプラインは、オーシャニック・ショールズ海洋公園(Oceanic Shoals Marine Park)内を通り、オーストラリアの先住民族であるティウィ族(Tiwi)が住むティウィ諸島からわずか6キロメートルの沖合を通過する予定です。この事業が環境と文化に与える影響は甚大なものになる恐れがあります。
JBICには、先住民族から「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を得る義務がありますが、ティウィの人々との意味のある協議は行われていません。FPICの欠如は、JBICのガイドラインや、日本の民間銀行が署名している赤道原則に違反しています。