三菱商事に提出された気候変動に関する株主提案

三菱商事株式会社(以下、三菱商事)は、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロ(実質ゼロ)にすると表明しているにもかかわらず、新規のガス生産やインフラ開発を推し進め、この目標をないがしろにしています。

LNG拡張計画は気候変動対策の足枷

1.

国際エネルギー機関(IEA)の『2050年ネットゼロ・シナリオ』(NZE2050)では、開発が承認される新規の油田やガス田はなく、建設中または計画段階にある多くの液化天然ガス(LNG)プラントも不要であり、ガス火力発電を早急に削減しなければならないと結論付けられています。それにもかかわらず、三菱商事はLNG・ガス火力発電事業を大幅に拡大する新規事業を検討しています。

LNGカナダ事業は、ガスターミナルの開発事業で、気候変動への懸念や、関連するパイプライン事業により代々暮らしてきた土地に影響が及ぶとして先住民族が反対しているにもかかわらず、三菱が投資している。

2.

三菱商事は、油田・ガス田の新規探鉱・拡張を排除したり、なんらかの形で制限する方針を持っていません。
NZE2050の内容と三菱商事の方針・事業実態との比較

NZE2050の成果

三菱商事の方針

三菱商事の実践

「我々の道筋においては、2021年時点ですでに約束されている事業のほかには、開発が承認される新規の油田やガス田はない。」

油田・ガス田の新規開発を排除したり何らかの方法で抑制したりする方針がない

三菱商事は事業パートナーと共に、インドネシアのタングーLNGプロジェクトを拡張するため、ウダバリガス田の新規開発とヴォルワタガス田の増産を計画している

「現在建設中または計画段階にある多くの液化天然ガス(LNG)液化設備も不要である」

LNG設備の新規開発を排除したり何らかの方法で抑制したりする方針がない

石油やガスから発生する温室効果ガスの総排出量は2020年から2030年までに23%減少する(石油27%、ガス17%)

スコープ3排出量の目標がないため、同社の石油・ガス製品の最終用途からの排出を抑制することができない

現在、バングラデシュとベトナムにおいて2件の輸入ターミナル事業と計画中の3件のLNG to Powerプロジェクトに入札や出資を行っている[1]。これらの事業の予想寿命は25年であるため、2050年以降も二酸化炭素(CO2)を放出しながら、多くのCO2を排出するLNGを生産する

3.

2050年にネットゼロを達成するシナリオでは、LNGの需要が予想を下回ることで、三菱商事が行っているLNG投資の収益性は悪化すると見込まれます。投資家の皆様は、LNG事業を拡大する三菱商事の戦略が座礁資産をもたらす可能性があることも懸念する必要があります。米NGOのグローバル・エナジー・モニター(GEM)が2021年10月に発表した最新の報告書によれば、世界的なクリーンエネルギーへの移行により、アジアの新規ガスインフラ建設計画の大半は投資額が回収できる見通しが立たなくなってしまう恐れがあります。

三菱商事は気候目標達成までの道筋を開示していない

投資家は、企業の「2050年ネットゼロ」への約束とそれに伴う移行プランの信頼性を評価できるように、企業が指標や目標を開示することを当然期待しています。三菱商事は2050年までにネットゼロを達成すると約束していますが、目標達成に向けて実現可能な道筋を描いていることが分かるような重要項目について十分に開示していません。

  • 三菱商事は短期の排出削減目標を定めていません。同社の中期目標も、スコープ3排出量を除外しているため、2050年ネットゼロ達成に向けた道筋に整合し、気候変動の移行リスクに対処しているとは到底言えません。
  • CO2排出量の多い製品の販売事業を大規模に展開する三菱商事にとって、スコープ3排出量は重大な移行リスクです。それにもかかわらず同社は現在、スコープ3排出量の目標を設定していません。
  • 三菱商事が2022年3月にIEAのNZE2050シナリオに照らして行った分析では、移行リスクに関連する重要な財務上の仮定や主な不確定要素に対する定量的な感応度が一切開示されていません。こうした情報が開示されていないため、投資家は、三菱商事がどの程度の移行リスクにさらされているのかを正確に把握し、他社と比較することができません。

効果的で包括的な短期・中期の排出目標と自らの「2050年ネットゼロ」を実現するという約束に沿った資産配分の枠組みがなければ、同社は目標達成に必要なエネルギー転換と矛盾する事業や活動によって株主資産を損なう恐れがあります。

本株主提案は、当社が気候変動に関連する財務リスクを適切に管理し、長期的な企業価値を維持することを求めています。

  1. パリ協定の目標に沿った短期・中期の温室効果ガス排出量削減目標の開示
  2. 2050年までに温室効果ガスの排出を完全にゼロにするというコミットメントと、各新規重要資本支出の整合性を会社がどのように評価しているかについての開示

[1] 有料の金融情報と報道によれば、バングラデシュのマタバリ・サミットLNG火力発電所、マタバリ・サミットLNGターミナル、マタバリLNGターミナル、およびベトナムのバクリエウ発電所、ロンソン発電所