石炭業界が気候変動の元凶であることは明らかです。石炭を燃焼させることで命に関わる大気汚染物質が排出され、健康に害を及ぼすことも分かっています。そして、世界各地でクリーンエネルギーの価格がますます下がるにつれ、石炭は競争力を失ってきています。
日本政府はそのことを知りながら、石炭火力発電に対する巨額融資を続けており、世界の公的金融機関の中で、日本は中国に次ぐ世界第2位の融資規模となっています。
しかし、問題はこれだけではありません。日本の石炭火力発電所計画を巡っては、さほど表沙汰になっていない別の問題もあります。それは汚職リスクの増大です。
汚職スキャンダルが次々と露呈しているのです。例えば、発電所の契約の見返りに会社から賄賂を受け取った罪で、インドネシアの複数の有力政治家が有罪となったリアウ州の「リアウ1石炭火力発電所のスキャンダル」。このスキャンダルはさらに広がりを見せ、現在、PLN(インドネシア国有電力会社)の取締役社長の名前が事件の容疑者として挙がっています。このような状況において「日本が大口の投資元となっている新しい石炭火力発電所計画でPLNが責任者となっている」とすれば、由々しき事態です。
また、韓国の現代建設(Hyundai Engineering & Construction)は、「インドネシアのチレボン石炭火力発電所事業を巡り同国の政治家に賄賂を渡したことを認めている」と韓国の英字新聞コリアタイムスは伝えています。特にこの贈収賄事件は、日本と深い関係があります。というのも、チレボン石炭火力発電事業には、事業会社への出資比率が最も高い丸紅を筆頭に、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、さらに日本の三大メガバンクすべてが融資など金融支援を行っているのです。
この案件以外にも、丸紅はインドネシアの石炭火力発電所増設の契約を取るため、フランスの電力会社「アルストム」と共謀してインドネシアの国会議員に賄賂を贈ったことも曝露されています。
さらに、国際NGOグローバル・ウィットネスは、上述以外の案件についても、これまで明るみに出ていないリスクについて重点的に論じています。
グローバル・ウィットネスは、2019年4月17日に行われたインドネシア大統領選で注目を集めた副大統領候補サンディアガ・ウノ氏が、インドネシアの大手石炭会社から身元のはっきりしない海外企業に少なくとも4,300万米ドルが支払われていた件に関与した推移、そして、同氏が何らかの形でこの不正資金の流れから利益を得た可能性があることを明らかにしています。
ウノ氏は、今回のインドネシア大統領選の副大統領候補でしたが、次期インドネシア大統領選の最有力候補になるというのが大方の予想です。世界有数の大国で強大な権力を持つ政治家の過去の石炭関連事業に関わる取引について、一般国民の関心は大いに高まるでしょう。
また、グローバル・ウィットネスは、未解決の過去の業務上の取引に焦点を絞った2つ目の調査も公開しました。この調査は、パンジャイタン氏の石炭会社トバ・バラ・スジャテラが売却されたにも関わらず、売却金額が開示されず、売却先も分かっていない件について概要を説明しています。パンジャイタン氏は、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領の側近であり顧問を務めています。
インドネシアの汚職事件(グローバル・ウィットネスのウェブサイトにプレスリリース掲載)は同国で大いに注目を集めていますが、これらはグローバル・ウィットネスが発表している一連の記事の最初の2件にすぎません。
これらの調査結果は、いずれも日本政府にとって警鐘を鳴らすものです。しかし、日本政府は、安倍晋三首相が、地球温暖化対策の国際的枠組みを定めたパリ協定を支持する旨の発言をし、「気候変動対策のリーダー」と自称しているにもかかわらず、いまだに国内外の石炭火力発電所に10億ドル単位の資金をつぎ込んでいます。世界各地で石炭火力発電所に継続的な支援を行っている以上、気候変動対策のリーダーシップをとることはかないません。
以上は、インドネシアの石炭部門に関するグローバル・ウィットネスの初期的な調査にすぎず、今後数カ月の間に詳細な報告書が公開されることになっています。
世界で石炭火力発電事業に対する投融資を継続することは、気候変動に悪影響を及ぼすだけではなく、「日本は汚職まみれの石炭事業に関わっている国」という悪評判が立つリスクがあることに安倍首相は気づくべきでしょう。
グローバル・ウィットネスは、安倍首相と日本政府に対し、海外の石炭火力に対する経済支援を早急にやめることを要求しています。
アダム・マクギボンは、汚職撲滅を目指す国際NGOグローバル・ウィットネスの上級キャンペーン担当者です。