2020年4月29日
ベトナム中部で建設が計画されているブンアン2石炭火力発電事業の環境社会影響アセスメント(ESIA)において、国際的に認められている水準の環境影響評価手法が用いられていないこと等が、専門家による分析で明らかとなった。現地のコミュニティへの環境影響や健康影響がESIAに示されている以上に発生することが懸念される。
ブンアン2石炭火力発電事業は三菱商事が出資を行なっており、国際協力銀行(JBIC)、みずほ、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行が融資の検討を行なっている。
環境団体マーケット・フォーシズのエネルギー金融キャンペーナー、メグ・フクザワは「ベトナムのコミュニティや環境への悪影響がある事業への融資であるにも関わらず、銀行は明らかにデュー・デリジェンスを行なっていない」とコメントしている。
世界環境法連盟(ELAW)による分析により指摘された同事業のESIAに関する問題点は次の5点。
1 環境への影響を最小化するために石炭火力以外の代替案が検討されていない
2 不適切な大気汚染物質拡散モデルを採用しているため、大気質への影響予測が無意味なものになっている
3 国際的なガイドラインに反する石炭灰の処理方法を許可している
4 国際的なガイドラインの規定値を超える温排水の排出を許容している
5 海洋生物種への影響に関するアセスメントが適切に行われていない
FoE Japanの深草亜悠美は「再エネなどの代替案が検討されていないなど、ESIAには様々な問題点が見られる。2020年、すでに世界では石炭より再エネの方が安くなってきている。日本の企業は汚染を引き起こす石炭火力をこれ以上推進するべきではない」とコメントした。
ELAW所属の科学者であり今回の分析をまとめたマーク・チャーネイクは「大気への影響を予測するために用いられているモデルに重大な不備がある。ESIAのやり直しが必要だ」とコメント。また「地元住民は事業が地域の大気質にもたらす悪影響を正確に知る権利がある」と付け加えた。
また、エネルギー・クリーンエアリサーチセンター(Centre for Research on Energy and Clean Air)による分析によれば、事業による大気汚染物質の予測排出値が日本や韓国のものに比べ5倍から10倍高いということも判明している。
分析:エネルギー・クリーンエアリサーチセンターのリードアナリスト、ラウリ・ミリヴィルタ
この分析を行ったエネルギー・クリーンエアリサーチセンターのリードアナリスト、ラウリ・ミリヴィルタは「日本で許容されていないレベルの排出がブンアン2で許されるのはなぜか?日本や国際的なグッド・プラクティスを無視するということは、日本の銀行がベトナムの住民に悪影響をもたらすことで、自分たち自身をリスクに晒すということだ」とコメントしている。
ベトナムでは環境破壊に対する懸念が高まっており、環境保全の必要性も同時に高まっている。先週、ベトナム国会常設委員会の議長であるグエン・ティ・キム・ガンは「全人民がクリーンな環境で生きる権利を持ち、また環境保全の義務も持つ」と発言。また「環境破壊の影響を最も受ける個人やコミュニティが環境補償を求める権利を拡大すべきだ」とした。
マーケット・フォーシズのメグ・フクザワは「ブンアン2には、多数の環境・社会リスクが付随している。日本の銀行がこれらのリスクを深刻にとらえているというのであれば、ブンアン2はまさに融資をすべきではないプロジェクトだ。」と締めくくった。
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