保険会社は特に気候変動リスクにさらされています。
昨年、記録的な大雨とスーパー台風が東アジアの多くの地域を襲いました。しかし、その前からすでに自然災害による同地域の損害は急上昇しています。国連の報告書によると、2007年から2016年の間に、アジア太平洋地域の自然災害による被害は10年前の2倍になっています。「気候変動は将来この状況を悪化させる可能性が高い」と同報告書は警告しています。
保険会社は特に気候変動リスクにさらされています。台風、洪水、干ばつ、山火事などの災害による保険会社の損失は、過去2年間でそれぞれ年間1,400億ドルと800億ドルに達しました。これは、それまでに410億ドル程度であった平均損害額を大幅に上回ります。この期間、日本および他のアジア諸国の保険会社も同様に自然災害から記録的な損失を被りました。
アクサの最高経営責任者(CEO)トーマス・ブベル氏は、地球の平均気温が約4℃上がれば、気候変動の影響が非常に深刻かつ予測不可能になるため、地球が「保険引受不可能になる」と警鐘を鳴らしています。今週シンガポールで世界中の保険会社が集まる業界最大の年次展示会が開催されますが、その際に急速に進む気候変動にどう対応できるかを検討するべきです。
保険会社は気候変動の傍観者でも被害者でもありません。保険会社のリスク管理に関する決定が、陰ながら現代社会の開発に影響を与えているのです。クリーンエネルギーのリスク引受を行うことで、保険会社はその飛躍的進歩を加速させることができます。同様に、保険会社が、気候変動をより深刻化させる炭鉱や石炭火力発電事業のリスクに保険の提供を中止すれば、そのような事業の多くは断念せざるを得ないでしょう。
市民社会組織や国連事務総長などの働きかけにより、欧州・豪の大手保険会社は気候変動が進むなかでの企業自身の利益に関する長期的な考え方を示しました。2017年以降、石炭関連事業・企業に対する保険引受の中止、または少なくとも制限する方針を採択した保険会社は、アリアンツ、アクサ、ミュンヘン再保険、スイス・リーなどの業界最大手を含む大手保険会社13社にのぼります。
2018年5月、アリアンツ(独)のオリバー・ベーテCEOは石炭から段階的に撤退することを発表し、「気候変動にさらにより真剣に取り組んで」おり、「中核事業から気候変動悪化の最大の要因を徐々に除外」したいと述べました。
保険会社の脱石炭の影響はすでに現れています。世界的な大手保険ブローカーであるウイリス・タワーズワトソンによれば、石炭関連企業は、かつてないほど安価になった風力発電と太陽光発電との競争力を維持するのにすでに苦労しており、さらに保険業界の脱石炭方針によって「コストと適用範囲への圧力の上昇」にも直面しています。同時に、クリーンエネルギー事業の保険適用範囲は拡大しています。このような欧州・豪の保険会社の動きは歓迎されていますが、それでも十分ではありません。推定で770件の石炭火力発電事業がまだ計画中または建設中であり、その76%がアジアにあります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書によると、地球温暖化を1.5℃に抑えるのであれば、これらの石炭火力発電所はひとつも建設されるべきではありません。
アジア地域は、電力・エネルギーセクターにおける世界有数の保険会社であるSOMPO、東京海上、MS&AD、中国平安保険、サムスン火災海上保険などの本拠地です。これらの企業はどれも、欧州・豪の同業者とは対照的に、これまで石炭に対していかなる行動も取っていません。
近年、アジアの保険会社は環境保護に積極的に取り組んできました。東京海上は日本気候リーダーズ・パートナーシップ に加わり、SOMPOは経団連で企業行動・SDGs委員会の委員長を務めています。さらに両企業はMS&ADとともにScience Based Target(SBT)に基づき二酸化炭素排出量を削減することを表明しました。 中国平安保険とサムスン火災海上保険は、気候リスクの調査を行い、環境要因を投資決定に取り入れることを表明しています。
アジア諸国の保険会社による気候変動への取り組みは歓迎されていますが、現時点ではグローバルなリスク管理者として責任の核心に取り組んでいません。IPCCは、地球温暖化を1.5℃に抑えるために「前例のない」対策を講じることを社会のすべてのアクターに求めています。安価な風力発電と太陽光発電が飛躍的な進歩を遂げたにもかかわらず、石炭は依然として世界最大の二酸化炭素排出源となっています。欧州・豪と同様に、アジアの保険会社も低炭素への移行を完全に受け入れ、石炭関連事業への保険引受を中止するべきです。