昨夏、猛烈な熱波が日本を襲い、死者や病院搬送者の数は数千人に上りました。埼玉県熊谷市では国内観測史上最高となる41.1℃を記録しました。
2018年10月、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動影響に関して世界で最も権威のある報告書を発表しました。同報告書によれば、地球の平均気温が産業革命前の水準より1.5℃上昇した場合、世界人口の14%が5年に一度、猛烈な熱波にさらされると予想されます。地球の平均気温が2℃上昇した場合には、これが37%という驚異的な数字になります。ごくわずかな温度上昇でも、人々の苦しみと生態系の混乱は拡大するのです。
こうした背景から、安倍首相は英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿し、「地球を守るため、日本と共に今行動を」と世界に呼びかけました。首相はダボスで開催された世界経済フォーラムで、気温上昇を1.5℃以下に抑える必要性について言及するとともに、2050年までに世界全体の排出量を正味ゼロにするために、気候変動に関する行動を最重要な国際的政治課題の位置に戻すべく、日本は本年のG20議長の立場を利用すると述べました。首相はさらに「緑の地球、青い海のための投資は、かつてはコストと認識されましたが、今ではこれが成長の誘因です。炭素をなくすこと、利益を得ることは、クルマの両輪になれる」と付け加えました。
目的がはっきりした今、検討すべき緊急の課題は、日本がどのようにしてその目標に向かう軌道に乗るのか、どれくらい早く乗れるのかということです。日本の閣僚や政府機関、公的投資機関、企業が、新たなコミットメントや政策に速やかに従うとともに、自国経済および他国への影響について脱炭素化を加速するという目的意識を迅速に徹底する必要があることは明らかです。安倍首相はすでに、クリーン水素や人工光合成といった画期的発明からの成長の機会を捉えるよう、日本の実業界に大胆な課題を提起しています。さらに、日本がすでに省エネ技術で発揮しているリーダーシップは、建築業界にも展開できるものです。
より危険な熱波や台風、森林火災、洪水が予見されるにもかかわらず、世界のCO2排出量は増加し続けているというのが、残酷な現実です。そしてアジアにおける石炭使用の新たな増加が、その主要な推進要因になっている</a></span>のです。世界における石炭の燃焼が現在のペースで続けば、今世紀中の地球温暖化を1.5℃に抑えるのは不可能です。
世界の気候科学者たちが説明するところによれば、温暖化を1.5℃未満に抑える可能性を拓くためには、世界の既設石炭火力発電容量の3分の2を2030年までに段階的に廃止する必要があります。そしてOECDのすべての主要経済国は2030年までに、自国の石炭火力発電の段階的廃止を完了しなければなりません。
日本は現在、G7の中では、国内で新規石炭火力発電所を建設し、海外で新規石炭火力発電所に出資している唯一の国です。日本は石炭火力発電所に対する世界第2位の公的資金供給国であり、急速に衰退する産業を支援しています。そして東南アジアだけでも600億ドルの座礁資産を発生させる恐れがあります。例えば、国際協力銀行がベトナムにおいて環境を汚染する旧式の石炭火力発電技術への融資を検討しているという最近のニュースは理解しがたいものです。これはOECDガイドラインに違反する行為です。
しかし、時流が転換する兆しも見られます。
日本の多くの公的金融機関や投資家、企業は、すでに脱炭素化の未来に向けて準備を進めています。気候変動を深刻な財務リスクとして捉え、気候に配慮したビジネスや技術を大きな新しい機会と見ているのです。
例えば、日本の発電事業でトップ企業である丸紅株式会社は、石炭から撤退すると発表しました。同社は最近の声明で、気候変動は「地球環境と社会との共存共栄を脅かす問題であり」、潜在的に「丸紅の事業や丸紅を取り巻くステークホルダーにとっても影響が大きい」としています。
今や丸紅は、約3GWである石炭火力発電を2030年までに半減させるとともに、例外的な場合を除き、新規石炭火力発電事業には参入しないとしています。再生可能エネルギーへの投資も、現在のポートフォリオの10%から20%に引き上げます。
これはよい出発点です。丸紅は、世界の主要金融機関が石炭から撤退する動きに歩調を合わせています。出資企業はポートフォリオと受益者を気候リスクから守るべく動いています。他国で石炭火力発電に融資すれば国際社会での評価が損なわれることも痛切に理解しているのです。
資金供給者は、21世紀のエネルギー技術に内在する機会に目を向けるようになってきています。その結果、エネルギー転換は最も楽観的なアナリストの予想よりもはるかに速く進んでおり、再生可能エネルギーと蓄電池は販売価格の急落とともに急成長しています。再生可能エネルギーはほとんどの市場で、早ければ2020年にも石炭に打ち勝つでしょう。エネルギー市場改革に対する真剣な配慮と、政策的および財政的な誘因があれば、日本でも同じことがおこる可能性があります。
日本企業には再生可能エネルギーで世界をけん引する技術力と経験があります。日本はすでに、太陽光発電では世界第2位の輸出国であり、2018年には、富士通やソニーをはじめとする日本企業14社が全電力使用量の100%再生可能エネルギー化</a></span>を公約しました。さらに日本は、例えばクリーン水素などのさまざまな画期的技術をけん引する構えです。
大気にとっては排出がどこから来るのかも、だれが資金を提供しているかも関係ありません。CO2の排出量が1トン増えれば、心配も同じだけ大きくなるのです。粒子状物質による環境汚染や危険な気候影響のない、クリーンで健康的な環境を基盤とする新しい社会のパラダイムを市民は求めています。
G20サミットの開催を間近に控え、首相は自らはっきりと述べた真の気候リーダーシップに向けて、新たなビジョンを達成するための計画を明示する機会を手にしています。例えば、2050年までに排出量を正味ゼロにするための道筋を示す、強くしなやかな日本に公的資金を投入する、国内でも海外でも日本政府は新規の石炭火力発電の建設も出資も一切行わないようにするなどの計画です。
「地球を守る」ためには、上記のすべてが、いやそれ以上のものが必要なのです。