岸田政権の下、脱炭素政策を進めるため、「グリーントランスフォーメーション(GX)」の議論が行われているが、日本政府はかねてより「各国がおかれる状況はさまざまであることから実効的な排出削減に向けた取組を進めていくためには、画一的なアプローチではなく、多様な実態を踏まえて、幅広い技術やエネルギー源を活用した『トランジション』を加速化していくことが不可欠」とし、途上国の脱炭素化支援の一環として水素やアンモニア燃料の推進を図っている。
しかし、現在入手可能な水素・アンモニアは化石燃料から作られるものがほとんどで、それを既存の石炭やガス火力で混焼しても、温室効果ガスの排出削減効果はほとんどないか、むしろ排出を増加させる。さらに再生可能エネルギーの価格が下がる中、経済性もない水素・アンモニアを推進するのは脱炭素化を遅らせることにしかならず、化石燃料依存が続くことになるだけだ。
気候危機は喫緊の課題である。パキスタンは国土の三分の一が水没するような災害が起こり、800万近くもの人々が避難民となるような人道危機に見舞われている。世界中で、特に途上国において気候危機の影響が深刻になっている。私たちに必要なのは、化石燃料依存からの脱却であるが、日本政府が推進するGX戦略は、化石燃料にまみれたものだ。
こうした日本政府の「誤った対策」の押し付けに対して、各地で反対の声があがっている。26日のGXウィーク開幕に合わせ、日本やインドネシアなどの市民団体はアクションを行った。
Asian Peoples Movement on Debt and Development(APMDD、債務と開発に関するアジアの民衆運動)のリディ・ナクピルは「毎年、気候崩壊へと近づいています。しかし日本政府や日本企業は気候危機に対し、誤った対策を誇らしげに売り込んでいます。これらの対策は『世界が必要とするもの』ではありません。実際、解決策と謳われるものは、化石燃料の利用を長引かせ、中にはより排出を増加させるものまであります。このGX会議は、世界が緊急に必要としている急速で公平で、公正なエネルギー移行を遅らせようとしています。」とコメント。
WALHI(インドネシア環境フォーラム)のファニー・トゥリ・ジャンボレは、「LNGや水素・アンモニア混焼の利用促進をエネルギー移行と捉えることはできません。それらはむしろ、化石燃料を継続して利用したい企業に便宜を図るものです。そうした動きの背後にある真の意図は、エネルギー市場での企業コントロールを強める機会として気候変動問題を利用し、その目的を達成することにあります。化石燃料の利用を未だに奨励する日本の投融資(例えば、バンテン州スララヤ火力発電所でのアンモニア利用やアラフラ海でのCCUS付マセラLNG開発)は、エネルギー移行という名を装った21世紀型の植民地主義の形の一つです。現在、電力供給過剰の状態(ジャワ・バリ系統だけで6.7ギガワットにのぼる)にあるインドネシアは、誤った対策に固執するのではなく、化石燃料エネルギーの利用を止め、再生可能エネルギーベースの発電を増やしていくべきです。」と述べている。
気候ネットワークの鈴木康子は、「日本政府は、燃料水素・アンモニアの利用を推進していますが、政府試算による水素・アンモニア混焼時のCO2排出削減率には、製造時のCO2排出が考慮されていません。しかも、石炭とグレーアンモニア20%を混焼した場合の燃料費は、石炭専焼の2倍になるとも指摘されています。削減効果だけでなく経済性にも疑問が残る水素・アンモニアは、脱炭素に向けた真の解決策とはなりません。」と指摘。
Philippine Movement for Climate Justiceのイアン・リベラは「日本政府と日本の企業の気候変動対策の遅れが露呈しており、私たちの期待を裏切っています。日本政府は石炭とアンモニア混焼施設を含むアンモニアサプライチェーンの拡大に最大4740万ドルを投じています。私たちは、日本の官民がグリーンウォッシングであるこれらの誤った解決策を売り込むことを許すわけにはいきません。化石燃料を喧伝する日本の官民が積極的に真の解決策を取らない限り人々と地球を救うことはできません。日本の官民は化石燃料に対するあらゆる支援を急速にフェーズアウトしなければなりません。」とコメント。
また、FoE Japanの長田大輝は、「日本政府はガス開発をアジア諸国に押し付け、アジアの脱化石燃料を遅らせています。さらに、日本が投融資するガス開発事業はフィリピンなどで、豊かな海洋生態系を壊し、それに依存して生活してきた現地の漁師たちは苦しい生活を強いられています。日本政府は、日本によるガス開発支援に反対を突き付けているアジアの市民の声をしっかりと聴き、コミュニティのニーズに基づいた気候変動対策を講じていくべきです。」とコメントした。
CLEANバングラデシュのハサン・メヘディは「世界有数の化石燃料輸入国の一つが、気候変動を悪化させる技術を積極的に推進しているのを黙って見過ごすわけにはいきません。日本政府は真の解決策を拒否し、高価で不確実な技術をアジアに輸出することを選ぼうとしているのです」と付け加えた。
National Hawker Federation Indiaのサクティマン・ゴーシュは「日本はいまだに、エネルギー転換を先延ばしするために言い訳をしています。たとえば、アンモニアの混焼で石炭火力発電を役立てることができるといったような言い訳です。この地球にとって壊滅的な政策の推進が、私たちが求めているグリーンエネルギーの議論を乗っ取っているのです。」と話した。
さらに、Oil Change Internationalのスーザンヌ・ウォンは、「日本がアジアにおいて、温室効果ガス排出削減のために推進している水素・アンモニア混焼やLNGは、酷い誤解を招いています。この地域の国々は経済的・地理的事情は様々ですが、パリ協定の目標達成に必要なことは依然として普遍的であり、汚くてリスクの高い化石燃料への依存をやめなければなりません。日本は、誤った対策の売り込みをやめ、化石燃料に費やしている年間110億米ドルの公的資金を再生可能エネルギーのために活用すべきです。」とコメントした。
私たちは、水素・アンモニア混焼やガス火力といった「誤った対策」を推進する途上国支援に反対し、持続可能で地域のニーズに基づいた、真に持続可能な支援を行うよう、日本政府に求める。
以上
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連絡先:
国際環境NGO FoE Japan
深草亜悠美: fukakusa@foejapan.org
Asian Peoples Movement on Debt and Development
Lani Villanueva : villanueva.lani@gmail.com