(札幌 )15、16日の2日間に渡って開催されたG7気候・エネルギー・環境担当大臣会合で、来月のG7首脳会議に先立ち共同声明が発表されました。声明では、新たな化石燃料設備に対しても投資を拡大し、G7議長国の日本が推進する化石燃料ベースの技術を支持するとしています。
これは、IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)のG7に対する最新の分析が「地球温暖化を1.5℃に抑えるシナリオでは、新たなガス田や液化天然ガス(LNG)設備は必要なく、開発すべきでない」と以前の見通しを再確認した内容に反するものです。
合意文書では、「ガス部門への投資は、危機によって引き起こされた市場の供給不足に対処するために適切になり得るが、明確に定義された国の事情に従うことを条件とし、気候目標に合致し、ロックイン効果を生じさせない方法で実施される場合」と述べています。
議長国の日本は「天然ガスやLNGへの投資の必要性」を主張し、合意に盛り込まれることを目指していましたが、各国の閣僚はそれを押し返し、ガスに関する文言にいくつかの条件を加えるに至りました。しかしながら、IEAの1.5℃シナリオからも明らかなように、G7が気候目標に沿ったガス投資を行うためには、新規のガスおよびLNGへの投資を排除する必要があります。
IEAシナリオによれば、新たなガス田の開発は行わず、すでに建設中の液化天然ガス(LNG)事業は稼働させない、また既存のLNG設備なども早期に廃止する必要があります(以下のIEAのグラフ参照)。G7各国は、パリ協定に基づき「地球温暖化を1.5℃に抑える努力をする」と合意しており、新たなガス投資への扉を開き続けることは、目標から逸脱することになります。
また、2022年末までに化石燃料に対する国際的な公的支援を廃止するという昨年のG7の画期的な公約にも矛盾しています。この公約の重要性はオイル・チェンジ・インターナショナル(Oil Change International;OCI)の新しい分析からも明らかで、2020年〜2022年の間にG7は化石燃料事業に780億米ドルの公的資金を提供しているのですが、これはクリーンエネルギーへの支援の2.6倍にもなります。合意文章では、G7はこの公約を達成し、化石燃料への公的支援を「終了」したと主張していますが、OCIの分析によると、これは事実ではありません。英国、カナダ、フランスは国際的な化石燃料への資金支援を終了させたましたが、日本、イタリア、ドイツは2023年に化石燃料への新たな投資を承認しています。アメリカ合衆国は化石燃料の資金支援を制限する方針を採用していますが、これらは公表されていません。また同国バイデン大統領によるアラスカLNGとウィロー石油事業の最近の承認は広く非難されています。米国はLNGに対する大幅な追加支援を承認することをさらに検討しています。
文章には、「低炭素および再生可能な水素、またその水素から製造されるアンモニア等を開発する必要がある」とも述べられており、日本はG7開催国としての立場を利用して、化石燃料とアンモニア利用を重視したエネルギー戦略「グリーントランスフォーメーション(GX)」を国際化しようとしています。日本は、化石燃料に依存するアンモニアを、石炭火力発電所で石炭と混焼する計画で、この技術をアジア全域に普及させようとしているのです。石炭とアンモニアを同量まで燃焼させることは現在の技術では不可能で、仮に同量の混焼でも、電力部門の脱炭素化のために今すぐにでも廃止させなければならないガス火力発電所と同程度のCO2が排出されます。
調査からは、G7がクリーンエネルギーに移行し、化石燃料への依存を段階的に減らすことで、多くのことを得られると分かっています。これは、気候目標を達成するために重要なだけでなく、恒久的に高騰するエネルギーコストを引き下げ、エネルギー安全保障を向上させるためにも必要です。再生可能エネルギー技術はすでに安価になっており、短期的なエネルギー安全保障のニーズに対応するためにも、より迅速に規模を拡大することができます。また、化石燃料価格の変動に伴う財政不安や、世界的なガス需要の減少に伴う座礁資産リスクを回避することにもつながります。
これに対し、オイル・チェンジ・インターナショナル(Oil Change International)の専門家とG7諸国のパートナー組織は、以下の声明を発表しました。
Oil Change International 国際公的資金キャンペーン担当 ラウリ・ヴァン デル ブルク氏(Laurie van der Burg):
「ガスやLNGへの新たな投資への可能性を残せば、G7が1.5℃目標から逸脱することになると、科学的にも明らかになっています。さらに、化石燃料への国際的な公的支援を廃止するという昨年のG7の公約が達成されたという主張は、化石燃料事業への新たな投資からもわかるように、全くの嘘です。G7首脳は来月、新しいガスやLNGへの投資の可能性を完全に閉ざし、代わりに数十億ドルの公的資金を化石燃料から、よりエネルギー供給が安全であり、持続可能かつ安価な未来を築けるクリーンエネルギーに移行させる機会を最大限にいかすべきです。英国、カナダ、フランスは、これが可能であることを示しており、日本、ドイツ、イタリア、米国は、急ぎそれに追いつかなければなりません。」
Oil Change International アジア プログラム マネージャー スーザンヌ・ウォン氏(Susanne Wong):
「今回のG7閣僚会議では、日本が世界的なレベルで、気候変動に対するリーダーシップを発揮できていないことが明らかになりました。化石燃料からの脱却が急務であるにも関わらず、今年のG7議長国は、ガスやLNGの拡大、石炭の使用を長引かせる技術などを推し進めました。日本は企業の利益を優先し、汚いエネルギー戦略で、クリーンエネルギーへの移行を妨げてはなりません。」
Asian Peoples’ Movement on Debt and Development コーディネーター リディ・ナクピル氏(Lidy Nacpil):
「日本主導の今年のG7は、気候変動対策資金に関する義務を果たし、2022年末までに化石燃料への公的支援を廃止するという昨年の公約を果たす代わりに、人々と地球が緊急に必要としているもの、すなわち再生可能エネルギーシステムへの迅速かつ公平で公正な移行を、恥ずかしくも無視し続けています。アジア地域は、日本、G7諸国、グローバルノースが推進し、資金を提供した数十年にわたる化石燃料事業の影響に苦しみ続けています。G7が地球を温暖化させ、人々に害を与えるやり方に固執するならば、これから最悪の事態に直面します。」
Friends of the Earth Japan(FoE Japan) 日本キャンペーン担当 長田 大輝氏:
「日本は、海外の化石燃料事業に資金を提供し続けることで、約束破りと地球破壊の両方を同時に行っています。フィリピンのイリハンLNG輸入ターミナルのように、有害な事業によって、地域社会も環境も破壊してきました。気候変動に対処するために一刻たりとも時間を無駄にできない今、新たな化石燃料への投資を正当化するものは何もありません。日本は、昨年のG7の公約を遵守し、化石燃料への国際的な金融支援を直ちに廃止し、2030年までに石炭からの段階的かつ、完全な撤退を約束すべきです。」
英国E3G (E3G in the United Kingdom)上級政策アドバイザー ルイーズ・バローズ氏(Louise Burrows):
「G7の半数以上が複数の化石燃料プロジェクトを積極的に推進しており、日本とドイツはまだ新しい化石燃料の金融政策を採用していないのに、『G7が国際的な化石燃料への公的な資金支援を終わらせた』と主張するのは問題です。
真摯に向き合うのなら、G7は英国のリードに従い、この公約を誠実に実行する必要があります。もしこの公約に忠実であれば、G7は年間240億ドル以上の公的資金を化石燃料からクリーンエネルギーに直接移行させることができます。これは、G7のクリーンエネルギーへの資金を年間340億ドルにまで引き上げ、360億ドルのエネルギーアクセス資金のギャップを埋めるのに、ほぼ十分な金額となります。
数字は物語っています。G7は、世界的に公正で変革的、また迅速なクリーンエネルギーへの移行を促進するために、他に類を見ない立場にあります。G7はこの機会を最大限に活用し、直ちに、すべての国際的な公的支援を自然エネルギー優先にすべきなのです。」
ReCommon Italy 気候・金融キャンペーン担当者 シモーネ・オニョ氏(Simone Ogno):
「イタリアが化石燃料への資金提供廃止の誓約を履行していないことの影響は、日本が主導するG7閣僚会議など、国際的な場面で反響を呼び始めています。日本は、特に輸出信用機関を通じた化石燃料への長期的な投資をしているが、イタリアがアフリカ大陸に対してそうであるように、アジア大陸にとっては化石燃料から脱却するための現実的かつ公正なエネルギー転換の障害となる危険性があります。このため、フランスや英国など他のG7メンバーには、両政府を軌道に乗せるよう働きかけることを強く求めます。これは、イタリアが来年G7を開催する予定であることから、特に重要なことです。」
Oil Change International 米国プログラムマネージャー コリン・リース氏 (Collin Rees):
「G7閣僚の美辞麗句にもかかわらず、ガスやLNGへ新たに投資することで、『気候目標との整合性』を保つことはできません。これは、科学や正義に矛盾する致命的な嘘です。
ジョー・バイデンのチームは、建設されれば数十年にわたってコミュニティと気候を壊滅させてしまうアラスカの大規模なLNG事業を承認した数日後に、この文言に署名しており、恐ろしいほど空虚なものとなっています。バイデンは、G7で日本の汚いなエネルギーのロビー活動に立ち向かい、国内ではガス産業の言いなりになるのをやめなければなりません。」
Climate Action Network France 国際政策コーディネーター ガイア・フェーブル氏 (Gaïa Febvre):
「LNGは、私たちが切実に必要としている再生可能エネルギーと省エネルギーへの公正なエネルギー転換を妨げる危険な手段です。G7諸国は、短期的なエネルギー供給の懸念によって、我々の未来を新たな汚いガス設備に閉じ込め、さらなる依存関係を作り出さないよう注意しなければなりません。そして、代わりに化石燃料からきっぱりと脱却する必要があります。化石燃料に支配されたエネルギーシステムは、現在と将来の世代、そして私たちの地球にとって失敗なのです。」
Climate Action Network International グローバル政治戦略責任者 ハルジート・シン氏(Harjeet Singh):
「G7が化石燃料に依存し、持続不可能な消費を続けることで、人と生態系に危険な結果をもたらします。地球温暖化を引き起こす化石燃料への新たな投資は、すでに壊滅的な嵐や洪水、海面上昇に直面している脆弱なコミュニティに対する「死の宣告」となります。豊かな先進国もまた、貧しい国々が気候災害による損失と損害に適応し、そこから回復するために、十分な資金援助をするという責任を回避しています。」
Source: IEA (2023) Outlooks for gas market and investment.
*****
備考:
- 最近発行された2つのブリーフィング報告です。1)オイル・チェンジ・インターナショナルによる日本のアジアに向けた有害なエネルギー戦略、2)E3Gと共同制作によるG7 countries can shift billions into clean energy if they strengthen their commitment to end international fossil financeで、後者はG7諸国が、気候やエネルギー安全保障に関する約束を守ることにどの程度成功しているか、またできていないかを示しています。
- アジアをはじめ世界10カ国以上のNGOや市民団体が、5月に広島で開催されるG7サミットに合わせ、気候変動対策やエネルギー安全保障の約束を反故し、化石燃料に依存するエネルギー戦略を押し進める日本に対して、国際的な抗議行動を行う予定です。
- 2023年のG7公的資金による承認済みおよび保留中の事業に関する概要はこちらです。この事例からわかるように、G7が大臣会合において、2022年末までに化石燃料の資金支援を終了したと主張したことは事実と異なります。
*****
連絡先: オイル・チェンジ・インターナショナル(Oil Change International;OCI)
日本ファイナンス・キャンペーン担当 有馬牧子 makiko@priceofoil.org
日本メディア担当 芝田朋美 tomomi@priceofoil.org