アメリカ南部のメキシコ湾沿岸のコミュニティリーダーたちは、アメリカ全土の様々な団体と連携し、液化天然ガス(LNG)開発に抗議してきました。これまでに数多くの事業が阻止され、昨年、バイデン前大統領がLNG輸出承認を一時停止した際にも重要な役割を果たしました。トランプ大統領がその停止措置を解除する大統領令を発令したものの、法的な課題やLNGターミナル建設のための資金調達、ガス購入先の確保といった課題は残っており、さらに、地域住民の抗議運動が続くなど、アメリカのLNG輸出拡大の先行きは依然として不透明なままです。
日本は、米国LNG輸出事業における主要な資金提供国として際立っています。これらの事業は、メキシコ湾沿岸の地域住民の健康で安全な生活に甚大な被害をもたらしています。
メキシコ湾沿岸南部のコミュニティリーダーたちが、日本の政府機関や企業、金融機関にLNG開発への資金提供を止めるよう求めるため、2025年1月27日から31日にかけて日本を訪れます。
フリーポートLNGの爆発事故と地域社会への被害
テキサス州ブラゾリア郡に位置するフリーポートLNG事業は、LNG開発業者がいかに地域社会の安全や生活よりも利益を優先するか、いくつもの事例を示しています。2022年に大規模な爆発が発生し、火の玉は約137メートルの高さまで舞い上がりました。周辺住民が負傷したほか、約3,400㎥ものメタン、一酸化炭素、ベンゼンなどの有害物質が放出されました。この爆発事故後、この事業は8か月もの間操業を停止し、本事業と契約していた企業に多大な損失を与え、その後も施設の運転保守に苦しんでいます。
爆発事故以前から、ブラゾリア郡では石油化学工場や製油所からの長期的な産業汚染の影響で、がん発生リスクが米国環境保護庁(EPA)基準の22倍にも達していました。
フリーポートの住民は、これらの化学物質の累積的な影響により、肺疾患、早産、心血管疾患、脳卒中リスクの高まりといった健康被害に直面しています。同郡の大気の質は、米国肺協会によって一貫して「F評価」を受けています。
こういった問題は決してフリーポートLNGだけにとどまるものではありません。。LNGターミナル周辺の地域住民が有害な汚染物質にさらされる状況は、頻繁に発生しています。約322キロメートル離れたルイジアナ州のキャメロンLNGターミナルでは、輸出開始以降、主に設備の欠陥が原因で67件もの有毒ガスの「漏洩」が発生しており、これは月平均2回に相当します。
LNGがメキシコ湾岸の脆弱な生態系に与える影響
LNGによる汚染は、メキシコ湾の生態系を大きく変えてしまいました。何世代にもわたり、メキシコ湾の地域住民は漁業やエビ漁を生業として生活を営んできました。しかし、現在では漁獲量が減少し、地域社会から食料と収入が奪われています。カルカシュー・パスLNGターミナルが昨年稼働する以前、地域の漁師たちは年間約317トンのエビを捕獲していました。しかし、漁師たちによれば、現在ではエビの漁獲量が約90%も減少しており、生活への補償は行われていません。
Louisiana Bucket Brigadeの調査によると、カルカシュー・パスLNG輸出ターミナルは稼働開始後の最初の343日間のうち286日間、つまり初年度の83%において大気汚染許可に違反していました。それにもかかわらず、このLNG施設を運営するガス会社であるベンチャー・グローバル社は、事業改善に取り組むのではなく、州の大気質管理機関に対して許容できる汚染基準を引き上げるよう求めました。同社は1年間で1億8400万米ドルの税控除を受けています。また、ベンチャー・グローバル社は、プラクミンズLNGターミナル、デルタLNGターミナル、カルカシュー・パス2LNGターミナルの建設計画を進めています。
気候への影響は石炭より33%悪い
LNGは、ガスのサプライチェーン全体を通して汚染を引き起こします。LNGの主成分はメタンであり、排出後の最初の20年間において二酸化炭素の85倍もの強力な温室効果を持っています。コーネル大学の科学者ロバート・ハワース氏の研究によれば、アメリカから輸出されるLNGは石炭よりも少なくとも33%気候に悪影響を与えることが明らかになっています。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、アメリカの既存のLNG生産能力は、気温上昇を1.5度以内に抑え、気候危機による最悪の影響を回避するために必要な水準をすでに超えています。LNGへの資金提供は、油田での採掘量を増やし、プロセスのあらゆる段階で汚染を拡大することにつながります。日本が米国産LNGへの融資を続けることは、気候危機を悪化させ、緊急に必要とされる再生可能エネルギーへの移行を遅らせることになります。
日本による資金提供の実態
日本の民間銀行である三菱UFG銀行、みずほ銀行、三井住友銀行は、米国LNG輸出事業の主要な資金提供者であり、これまでに340億米ドル以上の融資を行っています。邦銀は、米国LNGの総融資額のほぼ4分の1近くを占めています。これらの銀行は、フリーポート、キャメロン、カルカシュー・パス、コーパス・クリスティ、サビーン・パス、コーブ・ポイント、エルバ島を含む既存の米国LNG輸出ターミナルに資金提供を行ってきました。また、これらの銀行は、現在建設中のリオ・グランデ、プラクミンズ、ポート・アーサー、コーパス・クリスティ(ステージ3)のLNG輸出ターミナルおよび拡張事業にも融資を行っています。
主要な日本の政府系金融機関には、国際協力銀行(JBIC)と日本貿易保険(NEXI)が含まれます。JBICとNEXIは、テキサス州のフリーポートLNGターミナルに対して37億米ドルの公的融資を提供しました。また、ルイジアナ州のキャメロンLNGターミナルには45億米ドルの投資を行っています。さらに、日本のエネルギー企業であるJERAは、世界有数のLNG輸入企業であり、フリーポートLNG開発会社の21.845%の株式を保有しています。
NEXIは現在、キャメロンLNGターミナルの拡張に対する融資を検討しています。JERAは、日本最大のガス会社であり、世界最大のLNG購入者の一つで、ベンチャー・グローバル社が計画し、物議を醸しているカルカシュー・パス2(CP2)LNG輸出ターミナルから年間100万トンのLNGを購入する20年契約を締結しました。さらに、日本最大の石油・ガス生産企業であるINPEXも、同事業から年間100万トンのLNGを購入する20年契約を締結しています。
日本の世界的なガス拡大への取り組み
LNGに関する日本の財政的な影響力は、米国南部湾岸地域をはるかに超えています。日本は、LNG輸出に対する国際的な公的資金の最大の提供者であり、2012年から2022年までに建設されたLNG輸出ターミナルおよび2026年までに完成予定のLNGターミナルに対する世界の公的資金の約50%を占めています。また、日本は世界でも有数のガスへの公的資金提供国であり、年間平均43億米ドルを支出しています。
あなたにできること
日本政府、企業、銀行は、アメリカ南部メキシコ湾岸地域における新規および拡張計画のLNG事業開発への融資と支援を停止すべきです。最前線の地域社会や環境、気候、健康、そしてアドボカシー団体で構成されるネットワークが、現在保留になっているLNG輸出および化石燃料インフラの全てを阻止するために行動を起こしています。米国LNGへの融資は、日本の機関に大きな評判リスクと財務リスクをもたらします。