日本が支援するアジアの液化天然ガス(LNG)開発が、
パリ協定で世界が目指す気候目標達成を頓挫させる恐れがあります。
バングラデシュ、タイ、ベトナムは、アジアでガス火力発電事業の拡大が最も著しい国々です(中国を除く)。最新の調査はこの三国を対象とし、アジアで液化天然ガス(LNG)の開発に最も積極的でパリ協定の気候目標を危険にさらしている日本企業を特定しています。
日本企業が支援を予定しているLNG火力発電事業の計画は合わせて15件に上り、これらの事業によって火力発電容量は33.2GW増強されます。こうした発電事業以外にも、日本企業が関与するLNG輸入ターミナルや浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU)が7件計画されています。最も罪深いのが、JERA(東京電力と中部電力の合弁会社)、三菱商事、三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)です。
国際エネルギー機関(IEA)は画期的なシナリオを発表し、2050年までに世界全体で温室効果ガス排出量ネットゼロの目標を達成するには、化石燃料の供給増を止めなければならないと明記しました。そして、計画段階のものだけでなく既存のものでさえ、LNGインフラのほとんどが座礁資産になる恐れがあると警告しました。それにもかかわらず、上記のような開発が計画されているのです。
日本企業が関与するバングラデシュ、タイ、ベトナムのLNG事業計画だけでも、日本が「国が決定する貢献(NDC)」の下で掲げている2030年の排出削減目標の3倍以上の温室効果ガスを排出することになり、NDCによる削減を帳消しにしてしまいます。
バングラデシュ、タイ、ベトナムにおけるLNG火力発電の開発と日本企業との関わり
マーケット・フォースでは、バングラデシュ、タイ、ベトナムで候補に挙がっているLNG事業を調査しました。この三国は、アジアでは中国に次いでガス火力発電事業の開発が活発な国々です。(グローバルエナジーモニター[GEM]のアジアガス火力発電所トラッカー[2022年4月]による。建設中・計画段階にある発電所の容量に基づく。)
日本と米国は、バングラデシュ、タイ、ベトナムで計画されているLNG事業の開発において重要な役割を果たしています。計画段階にあるLNG to Powerプロジェクト(LNGの調達から発電までを一貫して行う事業)を発電容量ベースで見ると、海外企業が関与するプロジェクトのほぼ三分の一は日本企業が関与するものです。
日本企業の中でも特に深く関与しているのが、JERA(東京電力と中部電力の合弁会社)、三菱商事、SMBCグループです。
- JERAはバングラデシュとベトナムで計画されている5件のLNG to Powerプロジェクト(合計11,600MW)に関与しています。
- 三菱商事はベトナムで計画されている2件のLNG to Powerプロジェクト(合計4,700MW)に関与しています(表1)。
- JERAと三菱商事は、計画段階にあるLNG to Powerプロジェクトの発電容量(MW)では日本企業中でトップクラスです(予備調査の段階での関与を除く。表1)。
- JERAと三菱商事は、バングラデシュとベトナムで計画されている4件のLNGターミナルにも関与している、あるいは関与することが予想されます(表 2)。
- SMBCグループは、現時点でバングラデシュとベトナムで計画されているLNG火力発電事業への関与が確認されている唯一の日本の商業銀行です。同グループはベトナムのLNG事業2件(容量3GW)に資金を提供する予定です。また、バングラデシュで計画されているプルタミナLNG火力発電所(1.4GW)の財務アドバイザーも務めています。同グループ以外で日本からの融資元として把握できているのは、公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)のみです。
この開発は地域社会と気候に大きな被害をもたらす
日本企業が関与する全15件のLNG火力発電事業計画(33.2 GW)は、稼働寿命期間を通して21億4000万トン(二酸化炭素換算値[CO2e])の温室効果ガスを排出すると推定されます。この数字には、日本企業が環境影響評価や予備調査の段階で関与している事業は含まれません。
これは、パリ協定の目標達成に向けた「国が決定する貢献(NDC)」の下で日本が掲げている2030年の総量削減目標の3倍以上に相当します[1]。
JERA、三菱商事、SMBCグループおよびその他の企業は、自社の2050年排出量ネットゼロの約束をきちんと果たすべきです。これらの事業から撤退し、事業対象国の人々も裕福な国々と同じようにクリーンで安価な再生可能エネルギーを利用して発展する機会が得られるようにしなければならないのです。
分析方法
本分析では、2022年7月時点でバングラデシュ、タイ、ベトナムで建設が計画されているLNG事業(LNG発電所、受け入れ基地、FSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備 )を調査しました。
Market Forcesでは、融資契約調印前、または実現する見込みが高い提案事業を特定しました。関係企業や潜在的な資金提供者の詳細を含む事業データは、バングラデシュ電力局(Bangladesh Power Division)が2018年に発表した電力系統マスタープラン( Revisiting Power System Master Plan (PSMP) )、ベトナムの第7次電力開発計画(PDP7)改訂および第8次電力開発計画(PDP8)のドラフト、タイの電力開発計画2018年改訂版(PDP2018 Rev)、政府の公式文書、一般に入手可能な資料、企業のウェブサイト、査読付き学術誌、報道や調査報告書、有料の金融データベースIJGlobalおよびThomson Reuters Refinitivを活用して作成されました。
Market Forcesがまとめた事業リストは、国内ガスおよび輸入LNG事業を全て網羅したものではありません。国産ガスを原料とする事業は除外されています。Market Forcesは、分析結果や分析において提供されている情報が信頼に足るものであるよう尽力しましたが、外部情報源から収集したデータの正確性や正しさを保証することはできません。
排出量計算
提案されているLNG事業は、30年の経済的耐用年数の間、平均して 50%の稼働率を持つものと仮定しています。排出量の試算は、IPCC 2014, p1335で引用されているSchlömer S., T. Bruckner, L. Fulton, E. Hertwich, A. McKinnon, D. Perczyk, J. Roy, R. Schaeffer, R. Sims, P. Smith, and R. Wiser. (2014). Annex III:TEchnology-specific cost and performance parameters. In: Climate Change 2014: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Edenhofer, O., R. Pichs-Madruga, Y. Sokona, E. Farahani, S. Kadner, K. Seyboth, A. Adler, I. Baum, S. Brunner, P. Eickemeier, B. Kriemann, J. Savolainen, S. Schlömer, C. von Stechow, T. Zwickel and J.C. Minx (eds.) ]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA. https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/02/ipcc_wg3_ar5_annex-iii.pdf#page=7 によるガス火力複合発電のライフサイクル中央値490 gCO2eq/kWhに基づいています。
日本の第1次NDC更新(2022年3月25日アクセス). Climate Watch Data. https://www.climatewatchdata.org/ndcs/country/JPN/mitigation?document=revised_first_ndc§ion=ghg_target
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参考文献
[1] 日本のNDCの絶対排出量削減目標は、2013年基準からマイナス620 MtCO2-eである。出典:Climate Watch
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本記事は、Market Forcesによる 日本による化石燃料ガス(LNG)開発の拡大を掲載したものです。