国内外の環境NGOによる国内4企業への気候変動株主提案~決議結果および共同提案者からの声明~

マーケット・フォース、気候ネットワークの2団体と350.org Japan、FoE Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワークの3団体に所属する個人株主らは2022年4月、株式を保有する4企業に対し、より積極的な気候変動対策を通じて長期的な企業価値を高めるべく株主提案を提出しました。

当該企業(三菱商事, 三井住友フィナンシャルグループ, 東京電力ホールディングス,中部電力)の株主総会には、各団体の担当者が出席のうえ、改めて気候変動問題について問題提起を行いました。そして2022年6月29日(水)、日本企業に対しネットゼロの達成に向けた行動と透明性の向上を求める株主提案を支持した株主の数が過去最多となりました。

本日6月29日(水)から先週にかけて、220億ドル(3兆円)の資産を保有する株主が、三菱商事、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、そして日本最大の火力発電事業を保有するJERAを共同所有する東京電力ホールディングスと中部電力の4社に対し、気候リスクの管理を改善するよう訴えました。

株主提案の提案元には気候ネットワーク、マーケット・フォースが団体として、350.org Japan、 FoE Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワークに所属する個人が含まれています。

これらの株主提案の議決結果は、気候変動によるリスクの高まりとビジネス慣行を一致させることに課題を抱える企業に対して、これまで以上に厳しい目が向けられていることを意味します。このような深刻な脅威に対抗するための行動を求める機関投資家や株主の強い機運が高まっているのです。

©Taishi Takahashi/350.org Japan

三菱商事

株主提案議決結果

マーケット・フォース、気候ネットワークおよびFoE Japanに所属する個人株主が三菱商事に共同で提出した株主提案への賛成率を更新いたしました。

  • 第5号議案 定款の一部変更の件(パリ協定目標と整合する中期および短期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画の策定開示)20%
  • 第6号議案 定款の一部変更の件(新規の重要な資本的支出と2050年温室効果ガス排出実質ゼロの達成目標との整合性評価の開示)16%
三菱商事株主総会
©Taishi Takahashi/350.org Japan

本株主提案の提案者によるコメント

三菱商事の石油・ガス戦略は、パリ協定の目標達成に惨敗するシナリオと一致しています。明らかに、三菱商事の投資家はこのことに気づいており、企業が株主の資産でどれだけの更なる気候変動リスクを取るつもりなのか知ることを要求しているのです。

気候科学とエネルギー経済学は、地球温暖化を1.5度未満に抑えるためには、化石燃料産業の規模拡大を止める必要があることを明らかにしています。三菱商事は、石油・天然ガス計画を考え直す必要があります。

ジュリアン・ヴィンセント(マーケット・フォース 代表)

「三菱商事は、エネルギー移行を支援すると主張しておきながら、環境負荷もリスクも高いLNGセクターへの大きな投資を続けています。つまり、エネルギー移行と相反する事業に、株主の資産をつぎ込んでいるのです。我々の三菱商事に対し情報開示の拡充を求めた第5号、第6号議案に対してそれぞれ1.2兆円、9600億円に相当する株を保有する投資家から賛同を得ました。この賛同は、同社が新たなLNG計画を進める前に、その計画が2050年ネットゼロ達成のコミットメントに整合したものであるかを証明する必要があるという投資家の明確な指示表明です。」

福澤恵(マーケット・フォース エネルギー・ファイナンス担当)

「三菱商事は2050年のネットゼロ目標を掲げていますが、その内容は不明瞭で不十分なものでした。気候変動目標と現状の企業経営のギャップ、対策のあるべき姿について、対話を通じ互いの理解を深めることがある程度できたと感じていますが、必要とされる行動とスピード感がまだまだ足りていません。気候危機は社会全体に影響を及ぼしており、企業自体もその影響を受けます。引き続き、対話やさまざまな手法を通じ、企業に対し行動変容を求めていきたいと思います。」

深草 亜悠美 (FoE Japan気候変動・エネルギー担当)

「三菱商事は、パリ協定に整合するGHG削減目標を策定・開示していますが、国内外で多岐にわたる事業を展開する商社が、どのように目標を限られた時間内に達成するかは企業価値に大きく影響します。企業の資産、抱えるリスクを評価するには情報の開示は不可欠なので、今回の議決権行使にとどまらず、株主としての対話を続けていきます。」

鈴木康子 (気候ネットワーク プログラム・コーディネーター) 

株主提案内容、および投資家向け説明資料はこちらからご覧いただけます。

東京電力ホールディングス

株主提案議決結果

マーケット・フォース、気候ネットワークが東京電力に共同で提出した株主提案への賛成率を更新いたしました。

  • 第3号議案:定款の一部変更の件(2050年炭素排出実質ゼロへの移行における資産の耐性の評価報告の開示)9.55%

本株主提案の提案者によるコメント

「今日の結果は、2050年実質排出量ゼロへの道筋で、新規の石炭・ガス火力発電所、新規ガス田と関連インフラを積極的に開発しているJERAのような会社を抱える東京電力に対する株主からの非難を表しています。我々の東京電力に対し情報開示の拡充を求めた株主提案に848億円に相当する株を保有する投資家から賛同を得ました。政府が東京電力の株式の過半数を保有してることを考慮すれば、いかに多くの機関投資家が我々の提案に賛同したかを示しています。」

鈴木幸子(マーケット・フォース 気候エネルギー調査担当)

「東電・中電が50%ずつ株式を保有しているJERAは、日本最大の火力発電事業者であり、世界の脱石炭の潮流に逆行して、今なお対策のとられていない巨大な石炭火力発電所を神奈川県横須賀市や愛知県武豊町に建設している。また、ゼロエミッションを目指すとしながらも、その内容は実用化の目途もたたない水素・アンモニア混焼やCCUS技術に投資を振り向け、 保有する火力発電設備を将来温存する意向である 。このことは、将来の火力発電所の座礁資産化を招く可能性が高く、株主に甚大な不利益をもたらすリスクそのものだ。とりわけ東京電力は、持株比率54%を原子力損害賠償・廃炉等支援機構が持ち、事実上国有化された企業である。今回、我々の提案に対して9.55%の賛成を得たが、国の持つ54%を差し引けば、2割以上の株主が賛同したことを意味し、気候リスクの財務情報開示の重要性が認識されていると考えられる。東電・中電および国は、JERAへの投資に対する気候関連の財務リスクを開示することが日本最大のエネルギー企業としての責務であることを認識すべきだ。」

桃井貴子(気候ネットワークの理事・東京事務所長)

株主提案内容、および投資家向け説明資料はこちらからご覧いただけます。

中部電力

株主提案議決結果

マーケットフォースと気候ネットワークが共同で中部電力に提出した株主提案の賛成率を更新いたしました。

  • 第9号議案:定款の一部変更の件(2050年炭素排出実質ゼロへの移行における資産の耐性の評価報告の開示)19.9%

本株主提案の提案者によるコメント

「石炭とLNGを拡大するJERAの計画は、中部電力の株主に容認できないリスクをもたらします。世界が気候目標に沿って動くにつれ、中部電力グループの化石燃料関連資産が座礁するリスクが高まります。 JERAへの投資を通してもたらされる気候関連の財務リスクがどの程度なのかより良く理解するため、中部電力の2割もの投資家が、中部電力に明確な開示を要求することに賛同したのは当然とも言えます。」

鈴木幸子(マーケット・フォース 気候とエネルギー調査担当)  

「中部電力とも対話を続けてきましたが、まだまだ気候変動の危機感や世界の脱炭素に向けた流れについての理解に溝があるという印象であり、同社は株主総会でも電力の安定供給を重視し、および国の政策に従うとの会社の方針が主張していました。とはいえ、今回の中部電力と東京電力への株主提案に一定数の賛同が得られたということ、さらに電源開発(J-POWER)に対する国外の機関投資家からの脱炭素戦略の強化を求める株主提案(3つの議案)に各々約26%、約18%、約19%の賛成率を獲得していることからも、両社および2社が株式を保有するJERAの事業経営に影響を及ぼすと期待しています。」

鈴木康子(気候ネットワーク プログラム・コーディネーター) 

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三井住友フィナンシャルグループ

株主提案議決結果

マーケット・フォース、350.org Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワーク、気候ネットワークおよびFoE Japanに所属する個人株主が三井住友ファイナンシャルグループに共同で提出した株主提案への賛成率を更新いたしました。

  • 第4号議案:定款の一部変更の件(パリ協定目標と整合する短期および中期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画の策定開示)27%
  • 第5号議案:定款の一部変更の件(IEAによるネットゼロ排出シナリオとの一貫性ある貸付等)10%
SMBC
©Taishi Takahashi/350.org Japan

本株主提案の提案者によるコメント

「議案4は、同趣旨の去年の三菱UFJの23%よりも高い賛同率を得られました。ウクライナ戦争とエネルギー危機による化石燃料価格の高騰が続く状況にあり、また、大手議決権行使助言会社2社が評価した計6つの助言項目のうち、議案4の1つを除き、すべての助言は反対を推奨していたにも関わらずです。このことは、投資家が現状のSMBCグループの脱炭素への取り組みが不十分であり、取り組みを加速すべきだとの強いメッセージを取締役会に突きつけたと言えるでしょう。議案5については全く新しいタイプの提案であり、欧米の金融機関に今シーズンに出された類似の提案と同レベルの賛同率となりました。SMBCグループは投資家の要請に応え、短期・中期目標を含む事業計画を策定し、東アフリカ原油パイプライン(EACOP)をはじめとした化石燃料計画への資金提供からフェーズアウトしていくことで、気候関連リスクの管理を強化するべきです。」

渡辺瑛莉(350 org. Japan シニア・キャンペーナー)

「三井住友銀行フィナンシャルグループ(SMBCグループ)の株主の27%が、同社が気候変動リスクを管理できていないことを懸念しています。つまり、27%は資産額で1.5兆円にものぼり、SMBCの事業計画が化石燃料産業からシフトしていることを示す具体的な行動なしに、2050年のネットゼロ目標やパリ協定を支持するというSMBCの主張が空虚であることを懸念しているのです。 これは、SMBCとその取締役会のみならず、他の日本のメガバンクに対して、強い警鐘を鳴らすものです。」

鈴木幸子(マーケット・フォース  気候・エネルギー調査担当)

「太田純CEOは株主総会で、森林セクターを重要視していること、そして排出の多いセクターから随時算定していくと発言しました。しかし、SMBCの電力セクターにおける2030年の温室効果ガス削減目標には、木質バイオマス発電や石炭混焼による森林セクターからの排出は含まれていません。このままでは燃料燃焼時の排出がどこにもカウントされないままになり、脱炭素への誤った移行ファイナンスが行われてしまいます。SMBCは電力セクターの排出量算定を見直すと同時に、森林およびパーム油などの農業セクターの排出量を早急に算定し、短期・中期の排出削減目標を策定すべきです。」

川上豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)

 

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