カナダの先住民族Wet’suwet’enの指導者らは、国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation:JBIC)に対し、LNGカナダ事業への融資承認が、同行の社会・環境配慮ガイドラインに違反しているとして、正式な異議申し立てを行った。今年7月に提出されたこの申し立てでは、先住民族の土地を横断するガスパイプライン建設に伴う、先住民族の権利への重大な侵害、継続的な人権侵害、そして深刻な環境破壊が指摘されている。
カナダの市民団体は、JBICの代表取締役総裁である林信光氏に対し、ブリティッシュコロンビア州におけるLNGおよび水圧破砕(フラッキング)産業に関する独立した累積的健康影響評価が完了するまで、同州のLNG事業への一切の追加融資および資金実行を停止するよう求める書簡を送付した。この書簡には、カナダ環境看護師協会(Canadian Association of Nurses for the Environment:CANE)、カナダ環境医師協会(Canadian Association of Physicians for the Environment:CAPE)、スキーナ流域保全連合(Skeena Watershed Conservation Coalition)およびその他の主要な医療専門家らが署名しており、JBICによるLNGカナダ輸出ターミナルへの融資と、それに伴う先住民族の権利、健康、および環境への影響について深い懸念を表明している。
LNGカナダとは
LNGカナダは、カナダ初の主要な液化天然ガス(LNG)輸出施設であり、アジアへの直接輸出を可能にする、初めて北米西海岸に位置するLNG輸出施設でもある。この事業には、全長670kmにも及ぶ「コースタル・ガスリンク(CGL)」液化天然ガス・パイプラインの建設が含まれている。
JBICは2021年10月29日、三菱商事によるLNGカナダ事業への参画を支援するため、最大8億5,000万米ドルの融資を承認した。
同年、これに先立ち、日本とカナダの市民団体は先住民族の権利侵害や気候危機の助長を理由に、JBICに対し融資を行わないよう求める公開書簡を送っている。国際環境NGOのFoE Japanのキャンペーナーである深草亜悠美氏は、「先住民からの『自由意思による、事前の、十分な情報に基づく合意(FPIC)』が得られないまま融資を行うことは、JBICのガイドラインに明確に違反する。」と述べている。
Wet’suwet’en先住民族の世襲制指導者らによるJBICへの異議申し立て
この法的申し立ては、Wet’suwet’enの世襲制指導者であるNa’Moks氏と、Hagwilget村評議会の副チーフであるGwii Lok’im Gibuu(Jesse Stoeppler) 氏によって7月に提出された。申し立てでは、CGLパイプラインの建設が、カナダ憲法および国際人権基準により求められている先住民族の世襲制指導者からのFPICを得ることなく進められたと主張している。
Na’Moks氏は「JBICと三菱商事によるLNGカナダへの融資は、私たちの主権と人権を侵害し、先住民族の土地の守り手に対する植民地主義的暴力を助長し、私たちの土地の繊細な生態系を破壊してきた。」とし、「今年初めにJBICの代表者と会談したが、実効性のあるFPICを伴わない事業を求める声が高まる中で、我々は国際的な出資者たちに対し、彼らが融資している事業がもたらしている現実の責任を果たさせるためにこの一歩を踏み出すことにした。」と述べている。
先住民族の世襲制指導者らは、LNGカナダ事業およびその拡張計画に対するあらゆる追加融資の即時停止を求めるとともに、世襲制指導者らとの意義ある協議のほか、生態系の回復や、Wet’suwet’enの自決権への支援を含む救済策の提示を求めている。
副チーフであるStoeppler氏は、「日本とその金融機関には、国際法を遵守する責任がある。」とした上で、「JBICと三菱商事に対し、法的、環境的、社会的、倫理的責任を果たし、LNGカナダ事業への資金提供を停止するとともに、先住民族と直接対話するよう求めている。」と述べた。
異議申し立てで指摘されている主な違反事項
Wet’suwet’enの世襲制指導者らは、LNGカナダ事業に対して一貫して反対の立場を取ってきた。また、申し立てではこの事業がFPICを得ないまま進められたことに加え、パイプライン建設に反対する先住民族の土地の守り手に対する体系的な人権侵害が指摘されている。具体的には、カナダ王立騎馬警察(RCMP)による軍事的急襲や、反対者に対する恣意的な逮捕が含まれる。2025年2月には、ブリティッシュコロンビア州最高裁が、RCMPによる行為が憲章上の権利を侵害していたことを認めている。
また、CGLパイプラインおよびLNGカナダ・ターミナルによる、Wet’suwet’enの領土全体に及ぶ広範な生態系破壊も指摘されている。パイプラインのルートは、原生林、湿地帯、そしてサケが遡上する数十の河川や渓流など、影響の受けやすい環境にまたがる。コースタル・ガスリンク社は、繰り返し環境違反で罰金を科されており、これらは憲法上保護された先住民族の土地利用、資源主権、および生態系の管理に関する権利も侵害している。
さらに、LNGのサプライチェーン全体におけるWet’suwet’enや他の先住民族コミュニティへの、甚大かつ過度な気候被害についても言及している。LNGの主成分は強力な温室効果ガスであるメタンであり、LNGカナダは年間数百万トンのCO2換算量を排出することになる。すでに激化する森林火災による避難や生息地の破壊といった気候変動の影響に苦しんでいる中で、今後数十年にわたって排出を固定化することになる。
LNGカナダ事業の裏で犠牲になる人々
今年提出された法的申し立ては、CGLパイプライン建設をめぐって、長年にわたりWet’suwet’enの人々から報告されてきた被害に基づいている。アムネスティ・インターナショナルの2023年の報告書は、ハラスメント、脅迫、不法な監視、土地の守り手の犯罪者扱いなど、この事業に関連する多数の人権侵害を記録している。こうした状況は「恐怖と暴力の風潮」を生み出し、一部のWet’suwet’enの人々は、祖先伝来の土地で安全に暮らせないと感じるようになったという。
Wet’suwet’enの長老であり、Unist’ot’enヒーリング・センターのプログラムディレクターであるKarla Tait博士は「川の向こう側で、見知らぬ男がじっと監視し、空にはドローンが飛んでいる。それを知りながら娘を外で遊ばせるのは、以前より不安を感じる」と語る。
Wet’suwet’enのLaksilyu氏族の土地の守り手であるLawrence Bazil氏は、「私たちがここにいる理由、私たちが自分たちの権利、土地、水、動物、サケ、空気、そのすべてを守るためにこれほど必死に戦っている理由。それは、それが生きていくために不可欠だからだ。私たちの生き方は大地の恵みと共にある。彼らはそれをすべて破壊している。彼らは大地をずたずたに引き裂いており、それが止まる様子はない」と語る。
アムネスティ・インターナショナル・カナダ英語部門の事務局長Ketty Nivyabandi氏は、これら不当な事例は単発の事例ではなく、先住民族に対する今もなお行われている継続的な植民地主義的暴力の一部であると述べている。
天然ガスに対するJBICの世界的な資金提供の「負の遺産」
日本政府は、ガス事業に対する世界最大級の公的資金提供者の一つであり、LNG輸出ターミナルへの公的融資では世界最大の資金提供国である。
特にJBICは2016年以降、化石ガス拡大に186億米ドルを提供してきた。これは、複数の国における環境破壊、地域コミュニティの強制立ち退き、先住民族の権利侵害という「世界的な負の遺産」を残してきたと非難されている。フィリピンでは、JBICが支援するLNGターミナルが「海のアマゾン」と呼ばれる海域を脅かし、300種以上のサンゴと200万人の生計を危険にさらしている。タイでは、JBIC支援のLNGインフラが地域の生物多様性を破壊し、食料安全保障や人々の暮らしを損なっている。
化石燃料事業への融資を継続する銀行は、人権侵害や環境被害を防止する義務に違反したとして、訴訟リスクが高まっている。専門家はまた、再生可能エネルギーのコスト低下により、高コストで汚染性の高いガスが世界中のエネルギーシステムから淘汰される中で、LNGインフラが「座礁資産」となるリスクも警告している。それにもかかわらず、JBICおよび世界の銀行は、新たなガス・LNG事業への資金提供を承認し続けている。