国際協力機構(JICA)が現在支援を検討しているバングラデシュのマタバリ石炭火力発電フェーズ2事業に対し、18カ国の44団体が公的支援を行わないように求める要請書を発出しました。
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要請書本文
内閣総理大臣 安倍晋三様
外務大臣 茂木敏充様
国際協力機構(JICA)理事長 北岡伸一様
バングラデシュ・マタバリ石炭火力発電フェーズ2事業への
公的支援を行わないことを求める要請書
Bangladesh Working Group on External Debt (BWGED)
Email: bwged.bd@gmail.com,
Web: https://bwged.blogspot.com
私たち18カ国の44団体は、国際協力機構(JICA)が現在支援を行っているマタバリ石炭火力発電フェーズ1事業(バングラデシュ石炭火力発電会社(CPGCBL)が事業実施者、住友商事がEPCコントラクターとして関与)に対する、私たちの強い懸念にご注目いただきたいと思っています。JICAはすでに約14.8億ドルの支援を行い、加えて、推定で13.2億ドルの支援を行うと想定されています。さらに、JICAの支援によるフェーズ2事業(1200MW)の建設が提案されています。私たちは、コックスバザールのマタバリ地域に建設される石炭火力発電所建設に伴う緊急な人権問題と環境への懸念を提起するために本要請書をお送りしています。これらの発電事業は現地コミュニティの健康と生活、気候にもダメージを与えます。
私たちはJICAに対して、以下の理由から、同事業への支援を行わないよう要請します。
理由1:バングラデシュはすでに電力過剰生産能力を抱えており、追加の電力容量は、バングラデシュ政府の財務上の損失を増加させるでしょう。同国はすでに、ポストコロナの経済再生やサイクロン・アンファンからの復興のため、約80億ドルの予算を必要としています。
世界の他の地域と同様に、バングラデシュ経済はCOVID-19大流行の打撃を大きく受けています。同国は約80億ドルの予算を必要としており、来年2020/21年度の財政赤字を賄うため、外国ドナーからの45億ドルの融資獲得を模索しており、そのうちの10億ドルをJICAに要請しています。一方で、先月には、超大型サイクロン・アンファンが同国の沿岸部を襲い、1億2900万ドル相当の被害をもたらしました。つまり、同国は、座礁資産になる可能性が高く、巨額の政府補助金を要する新たな石炭火力発電事業に着手する余裕はありません。同国にはすでに大きな過剰電力供給能力があり、2018/19年度では、既存の発電所による電力生産容量の43%しか消費されていない一方で、休止している発電所の電力容量支払いは11億ドルに上りました。さらに、COVID-19大流行により電力需要は大幅に減少しており、このことはさらなる発電所建設の必要性について問題提起することになるかもしれません。追加の石炭火力やLNG火力による電力容量はいずれも、同国に大きな財政的な圧迫を加えることになるでしょう。よって、これらの事業は、JICAがバングラデシュの持続可能な開発を重視していることと大いに矛盾します。
理由2:JICAは、マタバリ石炭火力発電フェーズ1事業における土地収用と補償手続きに関する現地住民の苦情について、調査を行うべきです。
マタバリ石炭火力発電フェーズ1事業の2つのタービンは、エビの養殖、農作物、及び塩の生産に利用されていた土地に建設されており、それによってマタバリ地域住民の生計手段は制限されています。同事業による移転住民は、1982年土地収用法で定められている事前通知を受けておらず、公正な補償、生計回復、そして再定住は未だ実現していません。補償を受けるために賄賂として30%を支払わなければならなかった方もいます。同事業実施前、塩田及びエビ養殖場で雇われて生計を立てていた1057名の住民のうち、ごく一部しか再就業できていません。最初の土地収用から5年後の2019年時点で、多くの地主が補償を受けていない、もしくは補償が不十分であると主張しています。さらに、土地収用が行われた2012年から2015年までの間に、汚職に関与したとされる政府関係者は、未だ捜査も処分も受けていません。ActionAid International、Bangladesh Working Group on External Debt(BWGED)、Transparency International Bangladesh(TIB)などの市民社会組織は、同事業における土地収用のプロセスに欠陥があると主張してきましたが、政府がその疑惑について詳しい調査を開始することはありませんでした。
同事業の融資機関として、私たちはJICAに対し、被影響住民が困難に遭い続けることのないよう、同事業における補償や生計手段喪失に関する現在進行中の問題について調査を行うことを要請します。補償支払の遅延や代替住宅及び生計手段提供の遅延は、「補償は、可能な限り再取得価格に基づき、事前に行われなければならない。相手国等は、移転住民が以前の生活水準や収入機会、生産水準において改善又は少なくとも回復できるように努めなければならない。」と定めたJICA環境社会配慮ガイドラインを満たしていません。
理由3:COVID-19によるロックダウン下において、現地建設作業者が、健康を危険にさらしながら労働を続けることを余儀なくされたことに対し、JICAは労働者の人権侵害への責任を否定することはできません。
世界全体がCOVID-19による緊急事態と戦い、公衆衛生への厳格な対策を講じている一方で、同事業建設現場の3000人の労働者は、バングラデシュ全国でロックダウンの措置がとられているにも関わらず、建設作業を続けなければなりませんでした。2020年4月、労働者は安全な健康への権利を求め、ストライキを実施しましたが、同事業実施者であるCPGCBLは、労働者の苦情を認めず、作業を継続すると述べました。
同事業の融資機関として、JICAは、事業建設現場における労働者の権利侵害の責任を否定することはできません。日本は常に世界人権宣言(UDHR)支持の先頭に立ち、UDHRやJICAガイドラインに記されている政府開発援助(ODA)における人々の健康と安全への配慮等、JICAの人権基準への認識は、JICAが労働者の要求と安全な健康への権利に取り組むことを保証しています。
理由4:マタバリ石炭火力発電所による公害は、バングラデシュにおいて重大な健康被害及び早期死亡をもたらすことになるでしょう。
マタバリ石炭火力発電フェーズ1事業による公害は、同事業運転期間中に最大14000人もの早期死亡をもたらすと推定されています。バングラデシュの大気質はすでに世界最悪レベルにランクされており、化石燃料による大気汚染は、同国で毎年96000人もの早期死亡をもたらすと推定されています。同事業に対するJICAの支援は、同国における多くの人々の死に結びつくことになるでしょうし、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指すというJICAの表明と矛盾しています。
理由5:新規の石炭火力発電所建設はパリ協定の長期目標との整合性がなく、日本政府の「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に反しています。
パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(2019年6月閣議決定)では、「海外におけるエネルギーインフラ輸出を、パリ協定の長期目標と整合的に世界のCO2排出削減に貢献するために推進していく」としています。パリ協定の長期目標を達成するには、バングラデシュのような途上国であっても2040年までに石炭火力発電の運転を完全に停止する必要があるため、たとえ高効率であっても新規の石炭火力発電所建設はパリ協定との整合性なないことは明らかです。さらに、JICAの同事業に対する支援は、「「パリ協定」が掲げる目標を達成するために…(中略)…途上国の低炭素で気候変動の影響に強靭な社会・経済への転換支援にも積極的に取組んで行く」という「気候変動対策支援に関するJICAの協力方針」と矛盾します。
したがって、JICAは、マタバリ石炭火力発電フェーズ2事業を支援するべきではありません。
以上
※ 脚注と全署名団体については PDF(日本語)を御覧ください。